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札幌地方裁判所 平成元年(行ウ)13号 判決

北海道芦別市上芦別町一〇五番地

原告

高橋脩

右訴訟代理人弁護士

笹森学

亀田成春

北海道滝川市大町一丁目八番地

被告

滝川税務署長

右指定代理人

土田昭彦

成田英雄

木村俊道

池田敏雄

坂下晃庸

柏樹正一

房田達也

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和六三年三月四日付けで原告に対してした

(一) 昭和五九年分以後の所得税の青色申告承認取消処分

(二) 昭和五九年分の所得税の更正(ただし、平成元年六月一四日付けの国税不服審判所長の審査裁決による変更後のもの)のうち総所得金額二七九万六七三一円及び納付すべき税額一九万二五〇〇円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定(ただし、同裁決による一部取消後のもの)

(三) 昭和六〇年分の所得税の更正(ただし、平成元年六月一四日付けの国税不服審判所長の審査裁決による変更後のもの)のうち総所得金額三三六万七六三七円及び納付すべき税額二六万二〇〇〇円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定(ただし、同裁決による一部取消後のもの)

(四) 昭和六一年分の所得税の更正(ただし、平成元年六月一四日付けの国税不服審判所長の審査裁決による変更後のもの)のうち総所得金額三三五万八〇九八円及び納付すべき税額三〇万九七〇〇円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定(ただし、同裁決による一部取消後のもの)

をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、肩書住所地に居住し、運送業を営み、その所得税については、昭和五二年分から青色申告による申告を行っていた者であるところ、昭和五九年一二月二日から、右住所地において、右事業に加えて「茶々」の屋号で飲食店を営むようになった。

2  被告による原告の昭和五九年分以降の所得税の青色申告承認処分(以下「本件取消処分」という。)、原告の昭和五九年分から昭和六一年分まで(以下「本件各係争年分」という。)の所得税についての各確定申告(以下「本件各申告」という。)、本件各申告に対する各更正処分(以下、「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定(以下「本件各賦課決定」という。)並びに原告の異議申立てについての各決定及び国税不服審判所長がした各審査裁決(以下「本件各審査裁決」という。)の年月日及び金額等は、別表1に記載のとおりである。

3  本件取消処分、本件各更正処分(ただし、本件各審査裁決による変更後のもの)のうち本件各申告にかかる総所得金額及び納付すべき税額をそれぞれ超える部分及び本件各賦課決定(ただし、本件各審査裁決による一部取消後のもの)はいずれも違法であるから、原告は、被告に対し、本件取消処分等、前記請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2は認める。

2  同3は争う。

三  被告の主張

1  税務調査の適法性

(一) (調査の端緒)

原告の本件各申告には、昭和五九年分については、「テーブル・イス其の他」、「食器、器具」、「照明器具」等合計二一六万円余の経費としての計上が正当かどうか疑念がある上、その取得資金の源泉が不明であり、車両の更新に関する費用及びリビングボード等の減価償却資産六〇万円余の取得資金のそれぞれ源泉が不明であり、昭和六〇年分については、製氷機及び生ビールサーバーの減価償却資産四一万円余、昭和六一年分については、右製氷機等の減価償却資産のほかカラオケレーザーディスク及び日よれの減価償却資産二六二万円余のそれぞれ取得資金の源泉が不明であるなど、種々の不明事項があったため、被告は、原告の本件各申告に係る所得金額の正確性の調査を長内敏雄係官(以下「長内係官」という。)に命じた(以下、本件に関する税務調査を総称する場合は「本件調査」という。)。

(二) (本件調査の経緯)

(1) 長内係官は、昭和六二年四月二三日、原告宅に赴き、応対した原告の妻高橋笑子(以下「笑子」という。)に身分を明らかにした上、所得税の税務調査が目的であることを告げ、帳簿書類の提示を求めた。しかし、笑子は、原告の不在を理由にこれを拒否したので、同係官は、笑子に対し、同月二八日に再度来訪することとして原告の在宅を要望し、かつ、同日の都合が悪い場合には同月二五日までに同係官宛に電話連絡するよう依頼し、面接カードを手交して退去した。

(2) 長内係官は、昭和六二年四月二八日、原告から初めて電話連絡を受けたが、面接日時についての折り合いがつかなかったので、同年五月七日に同係官から電話することとし、同日までに都合のつく日を決めておくよう依頼した。

(3) 長内係官は、昭和六二年五月七日、原告宅に電話をしたが、応対に出た笑子から、原告の都合のつく日は不明であるとの回答を得たので、後日訪問するが、原告が不在であっても帳簿書類は提示するよう依頼した。

(4) 長内係官は、昭和六二年五月九日、同月一二日及び同月一五日に原告宅を訪れたが、笑子から、原告の不在を理由に、いずれも帳簿書類の提示を拒絶され、同年六月二日に訪問した際に、同月一一日にようやく本人と面談できる旨の了解を得た。このように、原告は、長内係官から笑子を通じて再三にわたり調査に応ずるよう求められたにもかかわらず、多忙と不在を理由にこれに応ぜず、長内係官が最初に原告宅を訪れた昭和六二年四月二三日から一月半後の同年六月一一日に至ってようやく面談に応じるという状況であった。

(5) 昭和六二年六月一一日に原告宅を訪問しての調査の際、長内係官は、原告に対し、昭和五九年分から昭和六一年分までの所得金額の確認が調査の目的であるので帳簿書類を提示するよう要請したところ、原告は、具体的な調査項目と調査理由の開示を求めるとともに、右に該当する特定部分しか提示しない旨回答し、また、反面調査する場合でも原告と専属契約関係にある日伸暖房有限会社(以下「日伸暖房」という。)へは調査に赴かないでほしい旨述べた。そこで、長内係官は、原告に対し、調査理由の具体的な開示は法律上要求されておらず、収入及び経費に係るすべての帳簿書類が提示されなければ申告内容の真偽につき調査ができないこと、反面調査先については原告の承諾の有無にかかわらず調査担当者の判断によって行うことを説明し、原告の理解と協力を求めた。しかし、原告は、右説明に納得せず、同係官の面前で飲酒し始め、帳簿書類の提示を拒絶し続けた。そこで、長内係官は、それ以上調査の進展は見込めないものと判断し、原告に対し、帳簿書類に基づく調査ができないので他の方法で調査するが、調査への協力、特に帳簿書類の提示については再考して連絡してほしい旨を告げ、退去した。

(6) 長内係官は、日伸暖房等の反面調査をする一方、昭和六二年二月三日、原告宅に赴き、笑子に対し、調査への協力についての再考の結果を質したところ、原告としては協力できないとの回答であった。

(7) 昭和六二年七月の人事異動により長内係官から右調査事務を引き継いだ大江係官は、同年八月三日、原告宅に赴き、笑子に対し、協力の意思があれば盆(同年八月一五日)までに電話等で連絡すうるように原告への伝言を依頼したが、その後原告からの連絡は一切なかった。

(8) 以上の経過を踏まえ、被告は、昭和六三年三月四日付けで、原告の帳簿書類の提示拒否を理由に、本件取消処分をし、かつ、本件各係争年分の所得を推計して本件各更正処分及び本件各賦課決定をした。

(9) 原告は、昭和六三年四月二日、本件取消処分、本件各更正処分及び本件各賦課決定について、異議申立てをした。そこで、被告は、北明泰志係官(以下「北明係官」という。)に調査を命じた。

(10) 北明係官は、昭和六三年五月二五日、原告宅に赴き、原告に対し、異議申立てに関する調査のため帳簿書類を提示するように要望したところ、原告は、青色申告承認取消処分を取り消した上でなければ調査には応じられないとして、右提示を拒絶した。同係官は、原告に対し、異議申立ての是非を判断するためには、帳簿書類の提示を受けることが不可欠である旨を説明したが、原告は、右提示に応じれば更正処分の維持のために利用されるのみである旨述べ、提示を拒否し続けた。そこで、同係官は、原告に対し、協力方への再考を要望し、退去した。

(11) 北明係官は、昭和六三年六月一日、原告宅を訪れたところ、笑子は、前日書面を郵送済みである旨申し立てたので、退去し、税務署において右書面を確認したが、そこには、公正中立の立場で回答するようになどとの記載があるのみであり、調査に協力する旨の記載はなかった。

(12) そこで、北明係官は、右同日、笑子に対し、電話で真意を確認したが要領を得なかったので、同月九日、原告宅に赴き、笑子に対し、真意を質したが、なお要領を得なかった。また、同月二四日、原告宅に赴いた際、笑子に対し、同月二七日までに電話で回答するように求めたが、その後、何ら回答はなかった。

(13) 北明係官は、昭和六三年七月一五日、原告宅に電話をし、回答を求めたところ、笑子から、前記調査には応じられず、帳簿書類の提示はできないと回答を受けた。

(14) 右異議申立て以後の経過を踏まえ、被告は、昭和六三年七月二三日付けで、本件取消処分、本件各更正処分及び本件各賦課決定に関する異議申立ては、いずれも理由がないものと判断し、それぞれ棄却した。

(三) (本件調査の適法性)

(1) 所得税法二三四条一項に定める「調査について必要があるとき」とは、過少申告の具体的な嫌疑のある者に限られるものではなく、申告の適否、すなわち、申告の真実性、正確性を調査するために客観的必要がある場合も含むのである。また、質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要性と相手方の私的利益との衡量において、社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解すべきである。そして、質問検査にあたり事前通知をなすか否かは、質問検査権行使の要件として税法上要求されておらず、これをすべきか否かは、当該調査の目的等に照らして税務職員において決定し得るものであり、納税者に事前通知することなく税務調査を行ったとしても違法ではない。このことは、調査理由の開示についても同様であり、調査の相手方に対し、調査の理由ないし必要性を具体的、個別的に開示する必要はない。

(2) 本件各申告においては、前述のとおり、多額の経費が計上されているがその正当性に疑問があったのみならず、多額の減価償却資産の取得、その減価償却費が計上されているにもかかわらず、その取得資金が不明であるなど、確定申告の体裁内容において所得金額の算定根拠が不明確な点があったのであるから、所得金額の正確性を検討するために調査の必要性があり、そして、右調査の必要性に基づき実施された本件調査は前述のとおりであるから、その方法に何ら不当な点はない。

(3) 以上のように、本件調査は適法であり、これを前提になされた本件取消処分、本件各更正処分及び本件各賦課決定はいずれも適法である。

2  本件取消処分の適法性

(一) 本件税務調査が適法に行われたことは、前記1(二)及び(三)で述べたとおりである。

(二) 本件においては、所部係官が、原告の申告に係る収入金額及び必要経費の正確性を調査するため帳簿書類の提示を再三にわたり要求したにもかかわらず、原告は、調査の理由について具体的な説明がない限り調査には応じられないとして、帳簿書類の提示を頑に拒絶し続けたものである。

しかしながら、質問検査権は、申告内容の正確性を確認するために行使し得ることはもちろんのこと、その行使にあたって相手方に調査の理由ないし必要性を具体的、個別的に開示することも当然には法律上の要件とされるものではないのであるから、原告が調査理由の不開示を理由として帳簿書類の提示を拒絶したことは正当なものとはいえないことは明らかである。

そして、右拒絶により、被告としては、原告の帳簿書類の備付け、記録及び保存が大蔵省令の定めるところに従って正しく行われていることを確認することができなかったのであるから、当該帳簿書類が当時客観的にどのような状態にあったかにかかわりなく、所得税法一五〇条一項一号の趣旨及び適正な課税の必要性等に照らし、本件の場合、同号所定の青色申告承認取消事由に該当することは明白である。

(三) したがって、本件においては、税務調査に何ら違法はなく、また、青色申告承認取消事由が存在するのであるから、本件取消処分は適法である。

3  推計課税の必要性

前記本件調査の経緯で述べたとおり、長内係官ないし大江係官が、昭和六二年四月二三日以降、原告宅に赴き、原告及び笑子に対し、再三にわたり調査への協力と帳簿書類の提示を求めたにもかかわらず、原告は調査理由の開示がないとの理由で頑に提示を拒絶し続けたものであり、このように原告が税務調査に協力しなかったような事情のもとにおいては、原告の取引先、同業者の実績等を斟酌して推計課税をする必要性が存することは明らかである。

4  推計課税の合理性

被告が原告の本件各係争年分の事業所得の認定に用いた運送業及び飲食業の各同業者の抽出経過、抽出基準及びその推計は以下のとおりであり、原告の営む運送業及び飲食業と業種、業態、事業内容、規模、立地条件等主要な点において類似している同業者を機械的に抽出して、その必要経費率、一定の売上原価当たりの売上金額、売上原価率平均値を算出するという方法により推計を行ったもので、被告の恣意が介在する余地はなく、公平妥当なものであるから、合理的であることは明らかである。

(一) 運送業に係る事業所得について

(1) 類似同業者抽出基準及び抽出の合理性

札幌国税局長は、平成元年一二月一五日、被告税務署長に対し、通達をもって、専ら個人で特定貨物の運送業を営んでいる者から、運転従事者が一人であって、本件各係争年分の収入金額が原告の収入金額の〇・五倍から二倍の範囲内にある者であること、年間を通じて営業している者であること等設定した五つの項目のすべてに該当するか否かという基準により類似同業者を抽出するよう命じ、右署長は、同基準に適合する同業者として、別表3のAないしKの一一名を抽出した。

(2) 運送業に係る事業所得の算出方法

ア 類似同業者の必要経費率の平均値

被告が、前記AないしKについて、それぞれ昭和五九年から昭和六一年までの各年分の総収入金額、必要経費の額を調査し、後者を前者で除して必要経費率(総収入金額に対する必要経費の割合)を求めた結果は別表3の「必要経費率」欄記載のとおりであり、右必要経費率の平均値は、昭和五九年分が六四・一六パーセント、昭和六〇年分が六四・三五パーセント、昭和六一年分が六二・九九パーセントである。

イ 運送業に係る総収入金額

被告が原告の運送業の専らの取引先である日伸暖房を反面調査した結果、原告の運送業に係る総収入金額は、昭和五九年分が一四〇九万七四三一円、昭和六〇年分が一二九五万三三〇二円、昭和六一年分が一二一八万五六六七円であることが判明した。

ウ 運送業に係る必要経費の額

前記イのとおり判明した各年分の総収入金額に、前記アのようにして算出した各年分の類似同業者の必要経費率の平均値を乗じる方法により原告の運送業に係る必要経費を推計したところ、別表2の〈3〉欄記載のとおり、昭和五九年分が九〇四万四九一二円、昭和六〇年分が八三三万五四五〇円、昭和六一年分が七六七万五七五二円と算出された。

エ 運送業に係る事業所得金額

前記イの総収入金額から前記ウの必要経費の額(推計額)を控除する方法により、各年分の運送業に係る事業所得金額を推計したところ、別表2の〈4〉欄記載のとおり、昭和五九年分が五〇五万二五一九円、昭和六〇年分が四六一万七八五二円、昭和六一年分が四五〇万九九一五円となる。

(二) 飲食店経営に係る事業所得について

(1) 類似同業者の抽出基準及び抽出の合理性

札幌国税局長は、平成元年一二月一五日、被告税務署長に対し、通達をもって、専ら個人で喫茶店及びスナックを営んでいる者から、本件各係争年分の売上原価額が原告の申告に係る売上原価額の〇・五倍から二倍の範囲内にある者であること、店舗が都市繁華街以外にある者であること、客席が一〇個以上三〇個未満であり、コーヒー、ジュース及びビール等の飲料の他、軽食類をも提供している者であること等設定した八つの項目のすべてに該当するか否かという基準により類似同業者を抽出するよう命じ、右署長は、同基準に適合する同業者として、別表4のAないしGの七名が抽出した。

(2) 飲食店経営に係る事業所得の算出方法

ア 類似同業者の各係争年分の売上原価率の平均値及び必要経費率の平均値

被告が、前記AないしGについて、それぞれ昭和六〇年及び昭和六一年の各年分の総収入金額、売上原価額を調査し、後者を前者で除して売上原価率を算出し、その平均値を求めた結果は、別表4の「売上原価率」欄記載のとおりであり、右平均値は、昭和六〇年分が三四・五二パーセント、昭和六一年分が三二・五六パーセントである。また、右各同業者の各必要経費の額は、別表4の「必要経費の額」欄記載のとおりであり、各年分の必要経費を右各総収入金額で除して、各年分の必要経費率を求め、その平均値を算出した結果は、同表の「必要経費率」欄のとおり、昭和六〇年分が七六・六二パーセント、昭和六一年分が七七・三四パーセントである。

イ 飲食店経営業に係る売上原価額

原告が申告した売上原価額は、昭和六〇年分が一七八万八七二三円、昭和六一年分が一五八万三八八五円である。

ウ 飲食店経営に係る総収入金額

前記イの各年分の売上原価額を前記アのようにして算出した各年分の類似同業費の売上原価率の平均値で除す方法により原告の経営に係る総収入金額を推計したところ、別表2の〈7〉欄記載のとおり、昭和六〇年分が五一八万一七〇〇円、昭和六一年分が四八六万四五一一円と算出された。

エ 飲食店経営に係る必要経費額

前記ウのとおり判明した各年分の総収入金額に、前記アのようにして算出した各類似同業者の必要経費率の平均値を乗じて原告の飲食店経営に係る必要経費額を推計したところ、別表2の〈9〉欄記載のとおり、昭和六〇年分が三九七万〇二一九円、昭和六一年分が三七六万二二一三円と算出された。

オ 飲食店経営に係る事業所得金額

前記ウの総収入金額から前記エの必要経費の額を控除する方法により、各年分の飲食店経営に係る事業所得金額を推計したところ、別表2の〈10〉欄記載のとおり、昭和六〇年分が一二一万一四八一円、昭和六一年分が一一〇万二二九八円となる。

(三) 譲渡所得の金額

原告は、昭和五九年九月、運送業の用に供する車両を買い替えるに際し、旧車両を下取価格二三三万で売却しており、右下取価格から旧車両の未償却残高七五万円及び所得税法三三条四項に基づく譲渡所得の特別控除額五〇万円を控除する方法により、右譲渡所得の金額を算出すると一〇八万円となる。

(四) 総所得金額

前記(一)(2)エの運送業に係る事業所得の金額と前記(二)(2)オの飲食店経営に係る事業所得の金額とを合計した金額に、昭和五九年分については、更に前記(三)の譲渡所得の金額を加える方法により、総所得金額を算出すると、別表2の〈15〉欄記載のとおり、昭和五九年分は、六一三万二五一九円、昭和六〇年分は、五八二万九三三三円、昭和六一年分は、五六一万二二一三円となる。

(五) 本件更正処分に係る総所得金額(審査裁決後のもの)は、別表1の「総所得金額」欄記載のとおり、昭和五九年分が六一二万七九六八円、昭和六〇年分が五三一万八〇八二円、昭和六一年分が五三九万八九四五円であるところ、これらの金額は、前記(四)の金額を下回っており、その範囲内であるから、これらの処分が適法なものであることは明らかである。

5  本件各賦課決定の適法性

(一) 昭和六〇年、昭和六一年分の過少申告加算税の算出方法について

本件過少申告加算税のうち、昭和六〇年分及び昭和六一年分については、国税通則法(昭和六二年法律第九六号により改正される以前のもの)六五条一項の規定に基づき、本件更正処分により増加した税額(審査裁決により減額された後のもので、同法一一八条三項により一万円未満を切り捨てた金額)に一〇〇分の五を乗じて算出する方法によりなされたものである。

右本件更正処分により増加した税額は、昭和六〇年分が二六万円、昭和六一年分が二八万円であるから、それぞれに一〇〇分の五を乗じて過少申告加算税を算出すると、昭和六〇年分が一万三〇〇〇円、昭和六一年分が一万四〇〇〇円となる。

(二) 昭和五九年分の過少申告加算税の算出方法について

本件過少申告加算税のうち、昭和五九年分については、右と同様の方法により本件更正処分により増加した税額を求めると、五八万円となり、それに一〇〇分の五を乗じた額は、二万九〇〇〇円となる。

同年分については、右増加した税額が五八万円と五〇万円を超えている(なお、申告額である一九万二五〇〇円をも超えている)ので、さらに、右国税通則法六五条二項の規定に基づき、本件更正処分により増加した税額である五八万六五〇〇円(審査裁決により減額された後のもので、同法一一八条三項によって切り捨てる前の金額)から、同項により算出した金額五〇万円を差し引き、さらに同法一一八条三項の適用により一万円未満を切り捨てると、その額は八万円となり、右額に一〇〇分の五を乗じた額は四〇〇〇円となる。

したがって、昭和五九年分の過少申告加算税の額は、右二万九〇〇〇円に右四〇〇〇円を加えた額である三万三〇〇〇円となる。

(三) 本件各賦課決定は、右のように法令の規定に従い、適正になされたものであるから、これが適法なものであることは明らかである。

四  被告の主張に対する原告の認否及び反論

1  被告の主張1(税務調査の適法性)について

(一) 被告の主張1(一)(調査の端緒)のうち、被告が係官に調査を命じたことは知らず、その余は争う。

被告は、原告の提出した昭和五九年分の申告について、「食器、器具」等の経費としての計上が正当かどうか疑念があったと主張するが、被告は、原告が飲食店を開業した事実を知っていたのであるから、右計上が飲食店の開業経費であることは明らかであり、これに疑念を持つ余地はない。また、被告は、昭和五九年ないし昭和六一年分の各申告について、取得資金の源泉が不明である部分があると主張するが、取得資金の源泉は、各年度における運送業及び飲食店経営の営業収入によるものであることは明らかであり、これが不明事項となるはずがない。

(二) 同(二)(本件調査の経緯)について

(1) 同(二)(1)は否認する。

長内係官が初めて原告宅に臨場したのは、昭和六二年四月二六日である。右調査の際、笑子は原告が不在であると言っただけであり、帳簿書類等の提示を拒否したことはない。また、同係官は、笑子に対し、同月二八日再度来訪するとは言い、面接カードは手渡したが、同日が都合悪い場合には電話連絡をするよう依頼したことはない。

(2) 同(二)(2)は否認する。

笑子が電話連絡をしたのは昭和六二年四月二七日である。

その電話の際、笑子は、五月の連休中に来てもらえないかとお願いしたが、長内係官の都合が悪いということで断わられた。

(3) 同(二)(3)は否認する。

(4) 同(二)(4)のうち、長内係官が被告主張の日に原告宅に臨場したこと、その都度笑子が応対したこと、昭和六二年六月一一日に原告と面談することとなったことは認め、その余は否認する。

同係官は、右の他、同年五月一九日、同月二二日、同月二六日及び同月二九日にも臨場している。

(5) 同(二)(5)のうち、長内係官が被告主張の日に原告宅に臨場したこと及び原告と同係官が面接したことは認め、その余は否認する。

原告は、長内係官に対し、その日までの経過について、五月の連休中に来て欲しかったこと、原告の都合のよい日を電話連絡すると言ったので、それまで待って欲しかったこと、調査内容を説明して欲しかったこと、原告の仕事の関係上忙しくて時間が取りにくいという事情も理解して欲しかったこと、電話番号を教えて欲しいと電話したこと、毎回店の入り口から出入りされたこと、笑子に対し、威圧的な言葉をかけたことなどについて抗議をした。

原告は、同係官に対し、「ところで今日は何の調査ですか。調査の理由は何なのですか。」と尋ねたが、同係官は、「いや、なにも分からないんだ。分からないから全部見せてもらうわ。」と答えた。そこで原告は、「何も分からないんだと言ったって、それでは調査に来た理由にはならないのではないですか。青色申告の決算書も出しているのだし、私の申告のどの辺が分からないのか、それを言ってくれなければ私の方としての返答のしようがないではないか。」と言ったところ、同係官は何も答えなかった。

原告は、同係官に対し、「滝川税務署管内にいる何千、何万人の申告納税者の中から私がリストアップされたのにはそれなりの理由があるはずだから、その辺を説明してくれなければ私の方では答えられないではないですか。」、「収入・売上高が変なのか、それに対して仕入経費の部分が変だというのか、具体的に示してくれませんか。」と質問したが、これらの質問には回答がなかった。

この時、原告は、同係官の前に帳簿類、領収書綴、売上伝票及びレジスターのレシート等を提示し、「この様にありますから、貴方が質問してくれて、はっきりこの辺の所と申してくれたならきちんとお見せします。ただ、何も訳の分からないままに全部という訳にはいきません。」

「それではもう少し調べて私の調査理由がはっきりしたら来てください。」、「私の収入が決算書類で信用できないのであれば銀行に行って調べれば分かるのだし、また、仕入先、支払先も調べてよろしいですよ。」、「ただし、私の勤め先の会社(日伸暖房)にだけは行かないでください。」と言った。

結局当日の調査は不調に終わった。

(6) 同(二)(6)のうち、長内係官が日伸暖房を反面調査したこと及び被告主張の日に同係官が原告宅に訪れたことは認め、その余は否認する。

被告が原告の依頼を無視して日伸暖房へ反面調査をしたことにより、原告は大変気まずい思いをさせられた。

(7) 同(二)(7)のうち、大江係官が臨場したことは認め、盆前までに電話連絡をするように依頼したことは知らないが、その余は否認する。

(8) 同(二)(8)ないし(11)、同(二)(13)及び同(14)は認める。

(9) 同(二)(12)は否認する。

北明係官が架電してきたのは、昭和六三年六月六日である。

(10) なお、被告が原告に対し、本件調査にあたって事前連絡をしたのは昭和六二年六月一一日のみである。

(三) 同(三)(本件調査の適法性)は争う。

(1) 本件税務調査の適法性に関する被告の反論

ア 調査の必要性の不存在

青色申告においては、行政庁と納税者の間に誠実に申告するという信頼関係が設定された上で、法令に基づく備付帳簿に従った決算により収支計算書が提出されているのであるから、申告書の記載内容については適正の推定が働き、単に申告の適否、すなわち申告の真実性、正確性を調査するという調査の目的のみでは足りず、具体的な根拠に基づいて過少申告の疑いが存在する場合に初めて質問検査権を行使する客観的必要性が認められるところ、被告が本件取消処分及び本件各更正処分の前提として行った本件調査においては、前記1(一)のとおり、右客観的必要性を欠いていた。

イ 事前通知及び理由開示の欠如

質問検査権の行使にあたっては、憲法三一条の適正手続の保障、すなわち、事前通知及び調査の理由開示が必要である。この点については、昭和五一年四月一日付国税庁通達のおいて「税務運営方針」が定められ、この中では、「調査方法等の改善」の項において、「税務調査は、その公益的必要性と納税者の私的利益の保護とのこう量において社会通念上相当を認められる範囲内で、納税者の理解と協力を得て行うものであることに照らし、一般の調査においては、事前通知の励行に努め、また、現況調査は必要最小限度にとどめ、反面調査は客観的にみてやむを得ない場合に限って行うこととする。なお、納税者の接触に当たっては、納税者に当局の考え方を的確に伝達し、無用の心理的負担を掛けないようにするため、納税者に送付する文書の形式、文章等をできるだけ平易、親切なものとする。」とされていることからも明らかである。

しかるに、本件調査において、前記(二)のとおり、これらがなされなかった。

ウ 調査の一方的な打ち切り

原告は、本件調査に誠実に対応しようとしており調査継続が可能であったのに、被告は一方的に本件調査を打ち切った。

エ 権力的、強制的な調査権の行使

長内係官は、原告の同意もなく笑子に調査に応じさせようとしたものであり、その調査態度は権力的、強制的であり、違法である。

以上のとおりであるから、本件調査は違法である。

2  被告の主張2(本件取消処分の適法性)について

(一) 同(一)は否認する。

本件調査が違法であることは、前記1(三)で述べたとおりである。

(二) 同(二)は否認する。

課税庁は青色申告者については誠実な納税者として信頼したのであるから、青色申告の承認の取り消しは、当該申告者において右信頼に違反する特段の事情がある場合に限り許される。

ところが、被告係官は、社会通念上当然要求される程度の努力も全く行わず、違法不当な調査を遂行した結果、昭和六二年六月一一日、原告から帳簿・レシート類の提示を受けながら、自己の責に帰すべき事由によってその確認をしなかったものである。

したがって、これに応じられなかったのは当然であり、調査拒否には当たらないから、信頼に違反する特段の事情がある場合とは言えない。

(三) 同(三)は争う。

3  被告の主張3(推計課税の必要性)について

右被告主張の事実は否認する。

課税処分における課税標準の認定は実額によるのが大原則であり、課税処分をなす場合に、課税庁は、可能な限り課税標準の実額を把握することに努めなければならず、所得の実額把握が可能な場合は、実額を調査決定すべきであり、推計課税が例外として許されるのは、課税庁において所得の実額調査が著しく不可能である場合で課税標準の実額を到底把握できない場合に限られる。

本件ににおいて、被告は、日伸暖房、原告の取引銀行、仕入先及び取引先の反面調査を行っており、その調査結果によって、実額の把握が不可能である事実を主張、立証しない限り、推計課税の必要性が認められたことにはならない。

4  被告の主張(推計課税の合理性)について

冒頭の事実のうち、被告が本件訴訟において、運送業と飲食店経営とに分け、いわゆる同業者率の方法により本件各係争年分の事業所得を推計したことは認め、これが合理的であるとの主張は争う。

(一)(1) 同(一)(1)は不知。

(2) 同(一)(2)のうち、被告の抽出したAないしKが類似同業者であることは否認し、別表3の各項目に記載された事実については、被告が自己が合理的と主張する算出方法によって計算したものであることは認める。

(二)(1) 同(二)1は不知。

(2) 同(二)(2)のうち、被告の抽出したAないしGが類似同業者であることは否認し、別表4の各項目に記載された事実については、被告が自己が合理的で主張する算出方法によって計算したものであることは認める。

(三) 同(三)は認める。

(四) 同(四)のうち、被告が主張する総所得金額の算出方法及びそれに基づく算出結果については認め、計算結果の数値の合理性については否認する。

(五) 同(五)は争う。

(六) 本件推計課税の不合理性は以下のとおりである。

(1) 本件における通達回答方式による同業者の抽出の場合、抽出管轄税務署の担当職員の主観的判断が入り込み、抽出過程の正確性を担保できない。

(2) 被告は、本訴に至って比準同業者を増加させた同業者率を主張するが、その抽出基準が異議申立てないし審査裁決段階より合理的かどうか検証されておらず、また、同業者の抽出基準は次のとおり不合理である。

ア 類似同業者抽出基準は、同一業種、業態、規模、立地条件という大雑把な基準に基づいて抽出されており、営業年数、設備、店舗面積、従業員数、営業時間、取扱商品、取引先、顧客の種類などは全く考慮されていない。

イ 運送業と飲食店業とを区別して推計したこと自体、それぞれの有機的関連性を無視した不合理なものである。

すなわち、抽出基準の中に運送業に従事し、かつ、食堂経営をも行っている者という基準が含まれていないから、それ自体によって不合理である。

ウ 運送業について、運送貨物の種別による相違の検討は全くなされてない。採炭地で運搬するのと、繁華街で生鮮食料品を運搬するのとでは、業態や繁閑の別、単価や期日の指定など種々の制限の有無について異なることは容易に推認できるのである。

エ 原告は、昭和五九年一二月に飲食店を開業したばかりだったのであるから、開店後数年間は、開業費用の減価償却費の他、営業のための備品類の購入が必要であるから、経費が売上を上回るのは当然であること、顧客を獲得するために収益を度外視したサービスをしたことなど個別的事情が全く考慮されていない。

(3) 被告が抽出した同業者について、被告は、その業態、営業形態、取引先、仕入先、従業員の構成、設備、立地条件など所得に関わらず全ての事項を明らかにしないから、推計の合理性についての立証方法は不合理であるというべきで、課税庁が原告の所得の存在及びその数額につき立証責任を負うという原則を骨抜きにするものである。

5  被告の主張5(本件各賦課決定の適法性)について

右のうち、(一)及び(二)は認め、(三)は争う。

6  実額についての原告の主張

(一) 原告の本件各係争年分の所得金額は、昭和五九年分が三〇九万三一四九円、昭和六〇年分が三七〇万一〇一〇円、昭和六一年分が三二三万二九四〇円である(各算出根拠は、別表5の1ないし3のとおり)。

なお、飲食店に関する昭和六〇年二月一日から昭和六一年一二月一一日までの売上伝票、総勘定元帳の記載及びレシートに基づく売上実額は、別表6のとおりであり、各合計額は、伝票金額六五八万五一九〇円、元帳売上額六五七万五六五〇円、レシート六四六万六七三二円である。

レシートの記録は、まだ、被告が税務調査にも入らず、更正決定も下されていない時期に機械的に打ち込まれたものであるから、事後に作成された疑いはなく、最も信用性がある。そして、レシートに基づく売上実額は、他の資料に基づく売上実額と一〇万円前後の誤差しかなく、かつ、それらより少ない額である。また、元帳の記載もほぼ完全に売上伝票の記載と一致するのである。

よって、原告の飲食店に関する売上実額は、原始資料にほぼ完全に一致しているから、その信用性が認められることは明らかである。

(二) 自己比準との比較による実額主張の合理性

原告の昭和六二年度以降の確定申告に基づく所得金額は次のとおりである。

昭和六二年度分 二九二万一七六三円

昭和六三年度分 三八一万六五八五円

平成元年度分 三七八万九二八八円

右所得金額からみても原告主張の実額が被告の推計課税より真実の所得に近いことは明らかである。

五  原告の主張(推計課税の不合理性及び実額反証)に対する被告の認否及び反論

1  同業者抽出過程の正確性について(被告の主張に対する原告の認否及び反論4(六)(1)に対して)

争う。

滝川税務署所得税資産税第一部門上席国税調査官久保田寛が、札幌国税局長通達記載の抽出基準に該当する者を抽出し、当該一一名(運送業)及び七名(飲食業)に係る青色申告決算書に基づき、課税事績報告書を作成し、右報告書は、同部門の統括国税調査官斉藤紀昭により検算されているが、右報告書が青色申告決算書の数値に基づいているものであることについては、証人溝田幸一も滝川税務署長から送付を受けた右同業者に係る青色決算書と合わせて数値の一致を確認している。また、右税務署長は、右国税局長通達に揚げられた抽出基準に基づいて類似同業者を選定したものであり、被告の恣意が介在する余地はない。

したがって、本件推計課税における抽出過程は、客観的で正確性が認められることは明らかである。

2  本件推計課税における類似同業者の抽出基準の合理性について(被告の主張に対する原告の認否及び反論4(六)(2)及び(3)に対して)

争う。

(一) 推計課税が所得の実額の近似値を求めるという本質を有すること、推計の基礎的要件に欠けることがない以上、同業者間に通常存する程度の営業状況の差異は無視できること、業態の類似性を厳格に要求することはかえって同業者の所得率等の平均値に不偏性を担保することができなくなる等実態に合致しないおそれが生ずること等を考慮すれば、同業者の類似性は、既存の資料に照らし、一応合理的と認められるもので足り、納税者の細部に至るまで完全に一致する必要はなく、原告が主張するような細部の点まで類似しなければ推計が不合理なものとなると解するのは相当でない。

(二) 本訴において審査請求以前の段階とは異なる同業者抽出基準を採用した理由は、運送業については網羅性を勘案して、抽出対象者を滝川税務所管内に事業所を有するすべての者としたこと及び飲食業については原告の営む事業(喫茶、スナック)に照らし、網羅性、正確性を勘案して、原告の申告売上原価の金額を推計の基礎としたという事情があるからであって、訴訟段階における抽出基準の方がより合理性を有するといえる。

(三) 原告は、運送業と飲食業を区別して推計したこと自体、それぞれの有機的関連性を無視するもので不合理であると主張するが、運送業と飲食業は、事業内容、形態が著しく異なる上、売上原価の有無、所得率等に差異があったので、被告は、それぞれの業種ごとの同業者の平均率により推計したものであり、それが合理的であることは明らかである。

(四) 原告は、飲食業について、開店直後の個別事情が無視されており、不合理であると主張するが、昭和五九年度分については、開業後一か月の営業期間にすぎなかったから所得金額はわずかであると推測したからこれを所得金額の算定から除外したのであり、昭和六〇年度及び昭和六一年度分についての推計方法には業種の同一性、営業規模の類似性及び平均値算出過程の整合性等、推計の基礎的要件が具備されており、同業者間に通常存する程度の営業状況の差異は無視し得るというべきであって、また、原告の個別的事情については、それが平均率による推計自体を全く不合理ならしめる程度の顕著なものとは認められないから、原告の主張は失当である。

(五) また、被告が抽出した同業者の業態等を明らかにできないことは、国家公務員法一〇〇条、所得税法二四三条所定の守秘義務によるものであり、他に秘密を保持しつつ同業者率等を立証する適切な手段はなく、他方相手方当事者たる納税者は、これに対する反証の手段を全く奪われているわけではないから、このような立証方法が不合理または信義則に反するものでないことは明らかである。

3  実額についての原告の主張について(被告の主張に対する原告の認否及び反論6に対して)

(一)は否認し、(二)のうち、原告の確定申告に基づく所得金額は認め、原告主張の実額が推計課税による所得金額より真実の所得に近いとの主張は争う。

(一) 本件実額反証の一般的失当性

推計課税取消訴訟における実額反証については、所得税法の規定に照らして、その主張する収入及び経費の各金額が存在すること、その収入金額がすべての取引先からの収入金額(総収入金額)であること、その経費がその収入と対応するもの(直接費用は売上との個別的対応、間接費用は期間対応)であることを主張、立証する必要があり、立証方法としては、会計原則等に照らし、正規の簿記原則に従って作成された会計帳簿等それに準ずる帳簿書類による立証が必要であり、また、立証の程度としては、申告納税制度における適正公平な課税の実現の要請及び立証の容易性等に照らし、納税者である原告に真実の所得額に合致することを合理的疑いを入れない程度まで立証する責任があるというべきである。

ところが、本件において、原告は、日々記帳していたと主張する帳簿書類に基づいて確定申告した所得金額が正確でないとして、訴訟段階になって、改めて、事後的に作成した帳簿書類により所得金額を算定し、実額を主張しており、これは、真実の所得金額の把握という点からは著しく不合理なものである。また、原告が実額反証を試みようとして提出している書証のうち、確定申告の段階で作成されていたと主張する甲第三二号証の現金出納長は、これは原告が二カ月に一回ぐらいにまとめてつけていたものであり、日々継続的に牽制、検証、記帳されたものではないことは明らかで、その形式的内容も飲食業に係る分の収支をメモ程度に記載しているにすぎないなど、原告が営む運送業及び飲食業を網羅した真実の現金の入出金状況からは著しく遊離していることは明白で、真実の所得金額を把握するためには著しく不十分なものである。

以上のように、本件において、原告が主張する実額を証する会計帳簿等は著しく不備であり、原告主張の所得金額が真実の所得金額であることを合理的な疑いを容れない程度にまで立証しているものとはいえない。

(二) 本件実額反証の個別的失当性について

本件実額反証は、前記(一)で述べた立証対象、立証方法、程度によれば、原告から提出されたその他の書証等の証拠を検討しても、次に述べるとおり到底立証が十分であるとはいえない。

(1) 飲食業の売上についての実額反証

飲食業に関する売上金額の実額主張は、売上伝票、レシート、現金在高、現金出納帳及び総勘定元帳の金額は相互に有機的に結び付き、系統だって一致していることを要するというべきである。しかし、原告の主張する飲食業の売上金額に関する実額は、原告が最も信用性のある原始資料と主張するレシートは、昭和五九年一二月分と昭和六〇年一月分をはじめ存在しないものがあること、原告は、原告自身が飲食業の売上の基礎であると主張する日々のお金の出入りを記載していたという帳面を提出していないこと、飲食店関係の昭和六〇年二月一日から昭和六一年一二月一一日までの売上を表した別表6の「伝票金額」、「元帳売上額」、「レシート」欄の各金額は、相互に異なる箇所が多数あり、売上を把握することはできないこと、売上伝票は日付け又は月を訂正したものなどが多数ある等不完全なものであり、また明らかに事後に作成したものがかなり混入する等信憑性に乏しいものであること、レシートも、主に個々の伝票から品目単位にレジ打ちしたものと日々の営業終了後、計算機代わりに売上伝票と照合した上、個々の売上伝票を基に再度レジ打ちしたものの各合計額がほとんど異なっている等不明かつ不自然な点が多く、レジの取扱いは著しく不完全であるといわざるを得ないこと等多くの問題点があるのであって、売上伝票、レシート、現金在高、現金出納帳及び総勘定元帳の金額が相互に有機的に結び付き、系統だって一致しているとは言えない。

また、自家消費部分(所得税法三七条)が売上未計上であり、さらには、開業の際のお祝いについても、事業の遂行に伴い生じたものであるから収入に計上すべきである(所得税法三六条一項)にもかかわらず未計上であるなど、明らかな計算誤謬もある。

(2) 運送業の売上についての実額反証

運送業に関する売上金額の実額主義についても、日々存する原始記録等を相互に牽制、検証した上で、会計帳簿等に記帳するとともに原始記録等を保存すべきところ、原告は、売上の元としたという日々のお金の出入りを記載したという帳面を提出しておらず、また、運送業と飲食業を網羅した真実の現金の入出金状況を示す現金出納帳が存しないことから、日伸暖房以外の現金売上がある可能性も否定できず、本件において原告が主張する収入金額がすべての取引先からの総収入金額であるとの立証はなされていない。

(3) 仕入金額についての実額反証

原告は、前記のとおり、仕入先に依頼して作成したという領収書の元となったと主張する日々の現金の出入りを記載していたという帳面を提出していない。また、原告が仕入金額の支出の事実を立証するために提出した書証をみても、出金メモのみで領収書、納品書等の提出がないため、仕入品目、数量、金額等が不明で、かつそれが実際に支出されたかどうか不明なもの、仕入先が各々異なっているにもかかわらず、領収書の支払者(原告)名に記載されている筆跡が同一で、明らかに領収証を事後に作成したと認められるものなど、その作成自体に疑義があり、それが実際に支出されたかどうか不明なもの、購入者、品名、使用目的等が明らかでなく、実際に支出されたかどうか不明である等その内容に疑義のあるもの、事業用の仕入か家事用の仕入か明らかでないもの等信用性に乏しいものが多く、本件において原告が主張する仕入金額が全て総収入金額に結び付いていることの立証はされていないといわざるを得ない。

(4) 必要経費についての実額反証

原告は、前記のとおり日々の現金の出入りを記載していたという帳面を提出していない上、原告が必要経費の支出の事実を立証するために提出した書証をみても、出金メモのみで領収書、納品書等の提出がないため、その明細、事業との関連性等が不明で、それが実際に支出されたかどうか不明なもの、支払先が各々異なっているにもかかわらず、領収書の支払者(原告)名に記載されている筆跡が同一で、明らかに領収証を事後に作成したと認められる等その作成自体に疑義があるもの、支払者が確認できず、その明細、事業との関連性等が不明であったり、支払者(原告)名が訂正されたりする等、その記載内容から実際に必要経費として支出されたかどうか不明なもの等信用性に乏しいものが多く、原告が主張する必要経費が、総収入金額に対応すること、すなわち、その主張する経費のすべてが原告の業務の遂行上必要であることの立証はなされていない。

(5) 原告は、自己比準による実額算定の合理性を主張しているが、原告主張の本件各係争年分の実額算定による所得金額については、いまだ実額反証についての立証がなされておらず、また、本件各係争年分後の原告の後続年分の申告所得金額は、本件各係争年分の課税処分とは何ら関係がない上、その具体的内容が明らかにされていない以上、比較の対象とはなり得ないものであるから、原告の右主張は失当である。

第三証拠関係

本件訴訟記録中の書証目録及び証人目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因一1(原告の地位)及び2(本件取消処分等)の事実は当事者間に争いがない。

二  税務調査の適法性について

1  本件調査の経緯等

被告の主張1(二)(1)ないし(7)のうち、長内係官が昭和六二年五月九日、同月一二日、同月一五日、同月六月二日、同月一一日、同月二三日に原告宅に臨場したこと、このうち同係官が原告と初めて面談したのは同月一一日であること、その際原告は、同係官に対し、日伸暖房へは調査に赴かないでほしい旨述べたこと、その後同係官が日伸暖房を反面調査したこと、大江係官が同年八月三日に原告宅に臨場したことは当事者間に争いなく、また、同(8)ないし(11)、(13)及び(14)の各事実は当事者間に争いがない。

右争いのない事実、証拠(乙二六、甲一四、甲二七(後記採用しない部分を除く。)、証人長内敏雄、原告(後記採用しない部分を除く。))、及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の各事実が認められる。

(一)  滝川税務署の担当官は、原告の昭和五九年分から昭和六一年分の確定申告について、多額の資産等の取得による多額の経費が計上されているので、その所得金額につき確認するよう長内係官にその調査を命じた。

長内係官は、昭和六二年四月二三日、原告宅に赴いたところ、原告が不在であったため、笑子に対し、その身分と氏名を明らかにした上で所得税の調査目的であることを告げ、帳簿書類の提示を求めたが、同人が原告がいないので見せられないと答えたため、同係官はそれでは同月二八日に再度訪問するので、その際は原告に会いたい旨伝え、同日の都合が悪い場合には他の日に変更するので、同月二五日までに連絡してほしい旨述べ、面接カードを渡して退去した。

(二)  長内係官は、同僚の職員から、訪問を予定していた昭和六二年四月二八当日、笑子から都合が悪くなったので電話してほしい旨の電話があったと聞いて笑子に電話をし、同年五月七日に同係官から連絡するので、同日までに都合のつく日を決めておくように要請した。

(三)  長内係官は、昭和六二年五月七日、原告宅に電話をし、応対に出た笑子に対し、原告の都合のつく日を尋ねたが、笑子は、分からないと答えた。

そこで、同係官は、後日再度訪問するが、原告が不在であっても帳簿書類の提示を受けたい旨、その上で検討した事項について後日質問する形で調査を進めるつもりである旨を原告に伝えるよう依頼した。

(四)  長内係官は、昭和六二年五月九日、同月一二日にそれぞれ原告宅を訪れたが、原告は不在であったため、笑子に対し、事業の概況を聞くとともに帳簿の提示と原告の都合をつけて連絡してくれるよう要請したが、笑子は、原告の休みは取れないと述べ、帳簿書類の提示については原告の不在を理由に拒絶された。

また、同係官は、同月一五日にも原告宅を訪問し、笑子に対し、右と同様の質問等をしたが、同人は、「何回言われても同じですよ、しつこいね、本当に」と言い、店の奥の方に行って同係官の話を聞かなくなった。

そこで、同係官は、笑子に対し、協力が得られないのであれば税務署として調査を進めることを告げた。

(五)  その後、長内係官は、原告宅を同年六月二日に訪問した際、同月一一日に原告と面談できる旨の了解を得た。

その際、笑子は、同係官に対し、「店の方に来ないでください」と言ったが、それに対し、同係官は、毎回自宅の方に訪れているが、応答がないので店の方に行っていることを説明した。

(六)  長内係官は、昭和六二年六月一一日午前一〇時、原告宅を訪問したが、原告から、五月の連休中に来てほしかった、原告の都合のよい日を電話連絡すると言ったのでそれまで待ってほしかった、忙しくて時間が取りにくい原告の仕事内容も理解してほしい旨言われ、また、毎回店の入り口から出入りするので迷惑を受ける、笑子に対する言葉が威圧的である等と抗議を受けた。

これに対し、同係官は、調査の目的は所得金額の確認であると告げ、昭和五九年分から昭和六一年分の収入、仕入れ、経費等の事業に関するすべての書類の提示を求めるとともに収入及び経費等のすべての帳簿書類が提示されなければ所得金額の確認ができないことを説明したが、原告は、滝川税務署管内の申告納税者の中から原告がリストアップされた理由の説明を求めるとともに「これは強制捜査じゃないんだろう、俺がいやだと言えば、刑事訴訟法では疑わしいだけではなにもできない、どこが違うか分からないでは調査には応じられない。」と言い、帳簿書類を提示しなかった。

また、同係官は、原告が「銀行調査でも取引先の調査でもして、どこがどのように違うかを出せばいいじゃないか、ただし日伸暖房だけは行くなよ。」、「俺は行くなと強迫しているのではないが、ただ、会社に行ったのが分かったら俺にも考えがある。」等と言ったため、調査の進展は見込めないものと判断し、原告に対し、帳簿書類に基づく調査ができないので他の方法で調査するが、調査への協力、特に帳簿書類の提示については再考して連絡してほしい旨を告げ、午前一一時半ころ退去した。

(七)  長内係官は、その後日伸暖房等の原告の取引先について反面調査をする一方、昭和六二年六月二三日、原告宅に赴き、笑子に対し、調査への協力についての再考の結果を質したところ、笑子は、「書類を全部見たいなんて、それはできません。」旨言って調査には応じなかった。同係官は、再度調査に協力するよう依頼し、原告から連絡してくれるように要請したが、笑子が店の奥の方に行ってしまったので、退去した。

(八)  その後長内係官は、原告の取引先に対する反面調査等を続行したが、昭和六二年七月に転勤となり、大江係官が右調査事務を引き継いだ。同係官は、昭和六二年八月三日、原告宅に赴き、笑子に対し、協力の意思があれば盆(同年八月一五日)までに電話等で連絡するように原告への伝言を依頼したが、その後原告からの連絡はなかった。

そこで、以上の経過を踏まえ、被告は、昭和六三年三月四日付けで、原告の帳簿書類の提示拒否を理由に本件取消処分をし、かつ、本件各係争年分の所得を推計して本件各更正処分及び各賦課決定をした。

原告は、昭和六三年四月二日、本件取消処分、本件各更正処分及び本件各賦課決定について、異議申立てをした。そこで、被告は、北明係官に調査を命じた。

(九)  北明係官は、昭和六三年五月二五日、原告宅に赴き、原告に対し、異議申立てに関する調査のため帳簿書類を提示するように要望したところ、原告は、青色申告承認取消処分を取り消した上でなければ調査には応じられないとして、右提示を拒絶した。同係官は、原告に対し、異議申立ての是非を判断するためには、帳簿書類の提示を受けることが不可欠である旨を説明したが、原告は、右提示に応じれば更正処分の維持のために利用されるのみである旨述べ、提示を拒否した。そこで、同係官は、原告に対し、協力方への再考を要望し、退去した。

(一〇)  北明係官は、昭和六三年六月一日、原告宅を訪れたところ、笑子は、前日書面を郵送済みである旨申し立てたので、退去し、税務署において右書面を確認したが、そこには、公正中立の立場で解答するようになどとの記載があるのみであり、調査に協力する旨の記載はなかった。

(一一)  北明係官は、昭和六三年六月九日、原告宅に赴き、笑子に対し、真意を質したが要領を得なかった。また、同月二四日、原告宅に赴いた際、笑子に対し、同月二七日までに電話で回答するように求めたが、その後何ら回答はなかった。

(一二)  北明係官は、昭和六三年七月五日、原告宅に電話をし、回答を求めたところ、笑子から、前記調査には応じられず、帳簿書類の提示はできないとの回答を受けた。

(一三)  本件調査において、所部係官が事前連絡の上原告宅に赴いたのは、昭和六二年六月一一日のみであった。

2  本件調査の経緯等の事実関係に関する原告の主張について

(一)  原告は、本件調査の経緯について、〈1〉長内係官が初めて原告宅に赴いたのは、昭和六二年四月二六日である、〈2〉笑子が長内係官に電話連絡をしたのは、昭和六二年四月二七日である、〈3〉長内係官から昭和六二年五月七日に電話連絡を受けたことはない、〈4〉長内係官は、被告主張の日時の他、昭和六二年五月一九日、同月二二日、同月二六日及び同月二九日にも臨場しているとそれぞれ主張し、これに沿う証拠もある(甲二七、原告)。

しかし、調査日時及び電話連絡に関する原告の供述によれば、右〈1〉については被告主張の日が正しいと思うとし、その主張を訂正している上、その調査日時の確認方法等は何ら客観的な裏付けによるものではなく、事後的に笑子と話し合ってこの日ではなかったかと記憶を喚起して定めたものにすぎないというのであるから、これを直ちに信用することはできないというべきであり、甲第二七号証も同様の記憶で記載されたものであるから、これも信用できないから、結局、これらの点に関する原告の供述部分及び甲第二七号証の記載部分はいずれも採用できない。

(二)  また、原告は、昭和六二年四月二三日の調査の際、長内係官が、同月二八日の都合が悪い場合には、同月二五日までに電話連絡をするように依頼した事実はないと主張し、前掲各証拠にはこれに沿う部分がある。

しかし、調査担当係官としては、調査の目的を果たすために被調査者との面談を希望するのであるから、次回調査日を伝えた上で、被調査者において、右期日の都合が悪いのであれば、あらかじめ連絡をするように要請することが自然であるというべきであって、これに反する原告の供述部分及び甲第二七号証の記載部分こそ不自然であるといえるから、これらの各部分は容易に信用することはできない。

(三)  さらに、原告は、昭和六二年六月一一日の調査の際、長内係官が調査の理由を何ら説明しなかった旨主張し、前掲各証拠にはこれに沿う部分がある。

しかし、同係官が、調査対象事業年度及び調査目的がこれらの事業年度の所得の確認であることを原告に告知したことは前記1認定のとおりであり、これに反する右各証拠部分は信用できない。

(四)  その他、原告の供述及び甲第二七号証の記載中の前記認定に反する部分は措信できず、他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。

3  本件調査の適否

所得税方二三四条は、具体的諸事情にかんがみ、客観的な必要があると判断される場合において、調査の目的を達するために当該調査事項に関連する質問をし、物件検査を行う権限を認めた規定であって、質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要性があり、私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限のある税務職員の合理的裁量に委ねられると解される。

そこで、本件調査が必要性を有し、かつ社会通念上相当な限度にとどまるものであるかどうかについて検討する。

(一)  質問検査権行使の適否

税務署の当該職員は、確定申告の真実性ないし正確性を調査するための客観的な必要性があれば質問検査権を行使することができると解されるところ、原告の本件各申告の場合、各申告書添付の各損益計算書において、昭和五九年分については、「テーブル・イス其の他」、「食器、器具」、「照明器具」等合計二一六万八七三八円が経費として、リビングボード等合計六〇万三〇〇〇円及び車両の更新に関する費用が減価償却資産として(乙四)、昭和六〇年分については、製氷機および生ビールサーバー合計四一万二〇〇〇円が減価償却資産として(乙五)、昭和六一年分については、カラオケレザーディスク及び日よけ合計二六二万四〇〇〇円が減価償却資産として(乙六)、それぞれ記載されていることが認められ、このように多額の減価償却資産の取得、その償却費が計上されているにもかかわらず、その取得資金の源泉が不明であるなど、取得金額の算定根拠が不明確な点があったといえるから、被告としては、それぞれの所得資金の源泉を明らかにし、本件各申告に係る所得金額の正確性につき調査を行う客観的な必要性があったことは明らかである。

原告は、青色申告においては、過少申告の疑いがある場合に初めて質問検査権を行使する客観的必要性が生じるとしたうえ、本件においては、昭和五九年分の申告に関し、被告は原告が飲食店を開業したことを調査時点において知っていたのであるから、「食器、器具」等の経費としての計上が開業経費であることは明らかであり、昭和五九年ないし昭和六一年分の申告に関しても、減価償却資産等の所得資金の源泉は、各年度における運送業及び飲食店経営の営業収入によるものであることは明らかであるから、右必要性を欠いていた旨主張する。

しかし、確定申告後に行われる所得税に関する調査については、適正かつ公正な課税の実現という税務調査制度の目的からすれば、確定申告にかかる所得金額が過少であるなどの疑いがある場合に限らず、申告の真実性ないし正確性を調査するために客観的必要性が認められる場合も含まれると解すべきである。そして、右税務調査制度の目的からすれば、この理は青色申告者に対する関係においても異なることはないというべきであるし、青色申告の承認は納税者が税務職員による必要に応じた質問調査権を受けた際、所定の帳簿書類を提示してその調査に応ずべき義務があることを予定しているというべきである。したがって、過少申告の疑いがなければ質問検査権を行使する客観的必要性は生じないという原告の右主張が合理的理由がなく、失当である。

(二)  事前通知及び理由開示の要否

原告は、本件調査について、事前通知(ただし、昭和六二年六月一一日の調査を除く。)及び具体的な調査理由開示がなされなかったとして、本件調査が違法であったと主張する。

しかし、事前通知及び調査理由の開示が所得税の調査実施の要件とされているわけではない。また、本件においては、前記1認定の各事実によれば、長内ないし大江係官は、昭和五九年分ないし昭和六一年分の所得税の調査が目的であることを告げ、合計八回にわたり原告宅を訪れるとともに、電話により原告に都合のつく日を連絡するよう要請し、また、原告が不在であっても帳簿書類は提示し、その後検討事項について質問するようにしたいと伝えるなど調査の実施に向けて努力していたことが認められるのであり、このような手段、方法による本件調査が社会通念上妥当性を欠くとは到底いえないというべきである。

したがって、原告の右主張は理由がない。

(三)  さらに、原告は、所部係官が、調査継続が可能であったのに一方的にこれを打ち切ったのみならず、本件調査は、原告の同意もなく笑子に調査を応じさせようとした権力的、強制的な調査であったなどと主張し、本件調査が違法であると主張する。

しかし、前記1認定の各事実によれば、原告が、所部係官の帳簿書類の提示要請に対し、調査の具体的理由の開示を要求するなどして、帳簿書類の提示を拒否し、調査に対し非協力的な態度に終始したため、調査が進展しなかったのであるから、所部係官において、調査の継続を断念し、調査を打ち切ったとしても、これをもって違法ということはできない。

また、笑子は、原告の妻であるとともに事業専従者であり(甲一ないし三)、このような者に対しては原告の同意を要せず質問検査権を行使しうるのみならず、前記1認定の各事実に照らせば、笑子に対する調査が格別権力的、強制的であったとはいえないことが明らかである。

よって、原告のこの点に関する主張はいずれも失当である。

4  以上によれば、本件調査の手続には何ら違法な点はなく、適法である。

三  本件取消処分の適法性について

1  青色申告制度は、納税義務者が自己の記録、保存している正確な帳簿書類を基礎として納税申告を行うことを奨励することにより、申告納税制度が適正に機能することを目的とする制度であるから、申告の基礎となった帳簿書類について所得税法二三四条に規定する税務職員の質問検査ができ、その調査により帳簿書類の備付け、記録及び保存が正確に行われていることを確認できることが制度の前提とされていると解される。このことは、帳簿書類の備付け、記録又は保存が大蔵省令の定めるところに従って行われていないことが青色申告承認の却下事由(所得税法一四五条一号)、取消事由(同法一五〇条一項一号)とされていることや、青色申告者に帳簿類の備付け、記録及び保存が義務づけられている(同法一四八条一項)ことからも明らかである。

そうすると、所得税法一五〇条一項一号が定める同法一四八条一項所定の備付け等が行われているといえるためには、単に青色申告者において帳簿書類の備付け等を行っていれば足りるというものではなく、税務職員が調査のためにその提示閲覧を求めた場合にはそれら帳簿書類が確認できるような状態において管理されていることを要すると解すべきであるから、青色申告者が、調査を行う税務職員の帳簿書類の提示要求に応じない場合には、右条項の備付け等の義務が果たされなかったものとして、同法一五〇条一項一号の青色申告の承認の取消事由になると解される。

2  本件においては、原告が、所部係官の帳簿書類の提示要求に対し、調査理由の開示を要求するなどして、帳簿書類の提示を拒否し続けたことは前述のとおりであり、これによって、被告は、所得税法一四八条一項所定の帳簿書類の備付け、記録又は保存が正しく行われているか確認できなかったのであるから、同法一五〇条一項一号の青色申告承認の取消事由があったというべきである。

この点、原告は、昭和六二年六月一一日の調査の際、長内係官の前に帳簿類、領収書綴、売上伝票及びレジスターのレシート等を提示した旨主張し、その証拠として原告は右同日の調査時に帳簿書類等を用意していた旨供述するが、右供述によっても右帳簿書類等は、原告が長内係官と応対していた居間の隣の部屋に山積みにして置いてあったというだけで、その際原告は長内係官に対し具体的な調査理由の開示を要求して調査を拒絶していたのであるから、このような状況の下においては、仮に原告のいうとおり帳簿書類等の用意がされていたとしても、これをもって帳簿書類を提示したということはできない。

3  以上からすれば、本件取消処分は適法である。

四  本件各更正処分及び本件各賦課決定の適法性について

1  推計課税の必要性について

原告が税務職員の所得税の調査に協力せず、帳簿書類を提示しなかったことは前記認定のとおりであるから、被告は、原告の本件各申告の正確性が確認できず、原告の真実の所得金額を把握できなかったものと認められる。

したがって、本件においては、推計課税を行う必要があったということができる。

2  推計課税の合理性について

被告は本件訴訟において、運送業と飲食店経営とに分けて、本件各係争年分の事業所得を推計しているので、以下右推計課税の合理性の有無を判断する。

(一)  原告の業態等

前記一の争いのない事実、証拠(甲二七、甲二八の1ないし9、甲二九、乙二三、原告)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められ、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) 原告は、昭和四六年ころから、日伸暖房と専属的な運送請負契約を結び、その収入は、日伸暖房から給与分(保険料控除後のもの)並びに月々の出来高額から燃料費、車検費、任意保険料などの諸経費及び右給与分を差し引いた額が精算金としてそれぞれ支払われ、右合計額を事業所得として昭和五二年分から青色申告をしていた者であるところ、右事業に加え昭和五九年一二月初めころから、「茶々」の屋号で飲食業を始めた。

(2) 右運送業については、原告の他右事業に従事する者はおらず、右飲食業については、主に笑子が従事し、一、二名のアルバイトを雇うときもあったが、原告自身がこれに従事することはあまりなかった。

(3) 「茶々」の座席数は二三ないし二四であった。

(二)  抽出過程及び抽出基準について

証拠(証人溝田幸一、乙二一、乙二二の一ないし一一、乙二三、乙二四の一ないし七及び弁論の全趣旨)を総合すれば、以下の各事実が認められ、他にこの認定に反する証拠はない。

(1) 札幌国税局長は、平成元年一二月一五日、被告税務署長に対し、通達をもって、〈1〉個人で特定貨物の運送業並びに喫茶及びスナックを営んでいる者、〈2〉右〈1〉に該当するものがいない場合には、専ら個人で特定貨物の運送業を営んでいる者又は喫茶及びスナックを営んでいる者のうち、運送業については次のAのすべての項目に、喫茶及びスナックを営んでいる者については次のBのすべての項目に、それぞれ該当する者か否かという基準により類似同業者を抽出するよう命じた。

Aア 青色申告の承認を受けている者で、滝川税務署管内に事務所を有する者であること

イ 運転従事者が一人であって、本件各係争年分の収入金額が原告の収入金額(被告が反面調査の結果把握したもの)の〇・五倍から二倍の範囲内にある者であること

ウ 年間を通じて営業している者であること

エ 災害等により経営状態が異常である者でないこと

オ 国税通則法の規定に基づく不服申立てがなされ、現在、その審理ないしは訴訟が係属している者でないこと

Bア 青色申告の承認を受けている者で、滝川税務署管内に事業所を有する者であること

イ 昭和六〇年分及び昭和六一年分の売上原価額が原告の申告に係る売上原価額の〇・五倍から二倍の範囲内にある者であること

ウ 店舗が都市繁華街以外にある者であること

エ 客席が一〇個以上三〇個未満であり、コーヒー、ジュース及びビール等の飲料の他、軽食類をも提供している者であること

オ 事業専従者が一名であること(ただし、年間を通じ、又は年間の一時期において、一、二名程度のアルバイト等の使用人がいても差し支えないものとする。)

カ 年間を通じて営業している者であること

キ 災害等により経営状態が異常である者でないこと

ク 国税通則法の規定に基づく不服申立てがなされ、現在、その審理ないしは訴訟が係属してる者でないこと

(2) 滝川税務署所得税資産税第一部門上席国税調査官久保田寛は、右税務署長の命により右各抽出基準に該当する者を抽出する作業を担当し、これに該当する一一名(運送業)及び七名(飲食業)に係る青色申告決算書に基づき、課税事績報告書を作成し、右報告書は、同部門の統括国税調査官斉藤紀昭により検算された。

右税務署長は、札幌国税局長に対し、右各抽出基準に適合する各同業者として、運送業者は平成元年一二月二五日、別表3のAないしKの一一名(運送業)を、飲食業者は同月二六日、別表4のAないしGの七名(飲食業)をそれぞれ報告した。

(3) 右(1)(2)認定の各事実及び前記1認定の各事実によると、運送業及び飲食業両者につき、対象者を一般的にその申告に係る数値が信頼できる青色申告者に限ったこと、滝川税務署管内にしたこと、年間を通じて営業している者に限ったこと、災害等により経営状態が異常である者を避けたこと及び国税通通則法の規定に基づく不服申立てがなされ、現在、その審理ないしは訴訟が係属している者を避けたことは、もとより合理的であり、運送業につき、特定の荷主との契約により特定の貨物を扱う者で運転従事者が一名の者に限ったこと及び収入金額についていわゆる倍半基準を設定し、事業の規模の面での類似性を考慮したこと並びに飲食業につき、客席を一〇個以上三〇個未満とし、「茶々」との規模的あるいは業態的類似性を考慮したこと、飲料の他、軽食類をも提供している者に限ったこと、売上原価についていわゆる倍半基準を設定し、事業の規模の面での類似性を考慮したこと及び事業専従者を原則一名である者に限ったことは、いずれも合理的であるといえる。

したがって、右各同業者の各抽出基準は、業種の同一性、場所的近接性、業態及び事業規模の類似性等を確保する基準として合理的であり、また、抽出基準の設定及び抽出過程に被告または札幌国税局長の恣意が介在した余地は認められず、正確に抽出されたということができる。また、各同業者は青色申告者でありその申告数値は信頼性が高く、抽出した各同業者も一一名(運送業)及び七名(飲食業)であり、各同業者の個別性を平均化するに足りるものといえる。

以上からすれば、運送業については右各同業者の必要経費率の、飲食店経営については右各同業者の売上原価率及び必要経費率の各平均値を基礎に算出する方法による所得金額の推計は、特段の事情がない限り、合理性があるといえ、本件においては右特段の事情を認めるに足りる主張立証はない。

(三)  推計課税の合理性に関する原告の主張について

(1) 原告は、通達回答方式による同業者の抽出の場合、抽出管轄税務署の担当職員の主観的判断が入り込み、抽出過程の正確性を担保できない旨主張する。また、被告が本訴において比準同業者を増加させた同業者率を主張しているところ、原告は、その抽出基準が異議申立てないし審査裁決段階より合理的かどうか検証されていない旨主張する。

しかしながら、推計課税における同業者の抽出過程において、各同業者が通達記載の基準に該当しているか否かにつき個々の担当職員の判断による取捨選択がなされることはいうまでもないが、これは税務署における指揮命令系統に従い、税務職員としての共通の経験をもとに一担当職員として判断している(証人溝田幸一)のであるから、通常その正確性は担保されているといえるし、本件においても、抽出過程において担当の税務職員の恣意性が入り込んだ事実を疑わしめる証拠はない。

また、本件のような課税処分の効力を争う訴訟においては、被告課税庁はその主張に係る課税基準の存在につき原処分後に収集した資料によってこれを立証することは別段禁止されておらず、口頭弁論終結に至るまで適宜その資料の提出とそれによる認識判断を主張することは許されるのであって、同業者の抽出基準が合理的か否かも口頭弁論終結時の主張につき判断すれば足りるのであるから、それ以前の異議申立てないし審査裁決時の抽出基準が不合理であり、その不合理が訴訟段階における被告の推計主張を許さないほど重大なものであったなど特段の事情がない限り、訴訟段階と異議申立てないし審査裁決時における推計の合理性の比較をする必要はないというべきである。そして、本件においては、前記(二)のとおり、抽出基準は合理的であり、また、右特段の事情は認められないから、右合理性の比較を要するという原告の右主張は失当である。

(2) 原告は抽出された同業者について、その業態、営業形態、取引先、仕入先、従業員の構成、設備、立地条件など所得にかかわるすべての事項を被告が明らかにしないことは、当事者対等の原則に反し、立証方法が不合理または信義則に反する旨主張する。

しかしながら、このような事項について明らかにしないことは、国家公務員法一〇〇条一項、所得税法二四三条所定の守秘義務に基づくものであるところ、被告における同業者の抽出過程が正確であったことは前記(二)のとおりであり、また、原告は自己の事業の特殊性などを主張、立証することによって、推計の合理性を争うことができるのであるから、右不開示をもって、訴訟追行上、原告に著しい不利益を与えるものではなく、このような立証方法が格別不合理であるとか信義則に反するものとはいえないから、原告の右主張は理由がない。

(3) 原告は、運送業と飲食業を区別して推計したことについて、それぞれの有機的関連性を無視するものであり不合理であると主張する。

しかし、運送業と飲食業とが、その事業内容、形態等において著しく異なっているものであることは公知の事実であるし、本件においても、飲食店の業務はほとんど笑子が行い、原告はほとんど関与していなかったことは前記(一)(2)の認定のとおりであり、しかもそのことが飲食店の売上等に影響していたという事情も認められないこと(弁論の全趣旨)などからすれば両業種の主従を考慮する必要もないから、運送業と飲食業を区別して推計したことに不合理な点はない。

(4) 原告は、本件各抽出基準には、営業年数、設備、店舗面積、従業員数、営業時間、取扱商品、取引先、顧客の種類などが考慮されていないこと、運送業について運送貨物の種別による相違の検討が全くなされていないことは不合理であると主張する。

しかし、同業者による推計の方法が、平均値による推計の場合には、同業者間に通常存在する程度の営業条件の差異は捨象されるというべきであり、推計課税がその性質上客観的実体との合致を求めるものでないことはいうまでもないところ、過度に厳格な類似性を要求することは、却って類似同業者が極めて少数になり、個別事情の平均化に支障を来すか、推計による課税を不可能ならしめるおそれがあるともいえるから、営業条件等の差異が平均値による推計自体を全く不合理ならしめる程度に顕著なものでない限り、推計の合理性は維持されると解される。

そして、本件各抽出基準が原告との類似性を担保するに十分なものであり、合理性を有するものであることは前記(二)のとおりであり、原告主張のような各項目における差異は、同業者の平均値を求める過程で包摂され、その平均により捨象されているというべきである。

したがって、原告の右主張は採用できない。

(5) 原告は、飲食業について、開店直後の個別事情が無視されており、不合理であると主張する。 しかしながら、被告は、後記(四)のとおり、昭和五九年度分の所得金額については飲食業分を考慮していないが、その理由は、飲食業については開業後約一か月の営業期間にすぎず所得金額はわずかであると推測したためであり、それ自体に何ら不合理はない。何故なら、運送業と飲食業を分けて推計課税をすることが合理的であることは前述のとおりであるところ、そのうち飲食業が開業してまだ間がないと考えられる場合、売上金額を上回る支出が開業のために費やされることがあり得ることは公知の事実であり、その場合に飲食業については課税すべき所得がないことになるのであるから、課税庁がこれを課税の対象外と判断して、課税方法の一つである推計課税の対象から除外することはむしろ当然の措置だからである。したがって、昭和五九年度についての本件推計課税の方法に不合理な点は認められない。

原告は、昭和六〇年度及び昭和六一年度について、開店後数年間は、開業費用の減価償却費の他、営業のための備品類の購入が必要であるから、経費が売上を上回るのは当然であることなどの個別的事情が考慮されていない点指摘する。しかし、原告主張に係る開業準備費または備品購入費支出行為であるビールサーバー、製氷機及びレーザーディスクカラオケ等の購入あるいは買換えは、喫茶及びスナックという営業形態からすれば、それらの購入あるいは買換えは通常の営業活動の中で発生するものであるから、これらについての同業者間の個別的差異は同業者の平均値を求める過程で包摂され、その平均により捨象されているというべきであり、推計自体を全く不合理ならしめる程度に顕著なものということはできない。

(6) 以上のように、推計の合理性に対する原告の反論はいずれも理由がない。

(四)  推計による本件各係争年分の所得金額等

被告の主張4(一)(2)、同4(二)(2)及び同4(四)各記載の算出方法及び算出結果並びに同4(三)は、当事者間に争いがないから、これを採用し、被告抽出に係るAないしK(運送業)及びAないしG(飲食業)が、類似同業者と認めることができることは、前記(二)のとおりであるから、結局、推計に係る原告の本件各係争年分の総所得金額は、昭和五九年分は、六一三万二五一九円、昭和六〇年分は、五八二万九三三三円、昭和六一年分は、五六一万二二一三円となり、本件各係争年分の各納税額を含め、本件各更正処分(本件各審査裁決による変更後のもの)に係る金額を上回るものとなる。また、右納税額に基づいて算出した過少申告加算税(算出方法及び算出結果については当事者間に争いがない。)も、本件各賦課決定処分(本件各審査裁決による一部取消後のもの)に係る金額を下回るものではないこととなる。

3  原告による実額反証について

当裁判所も、実額反証の対象、方法、程度については被告主張(事実摘示五3(一))のとおりと考えるので、これを踏まえて、以下本件における原告による実額反証について検討する。

(一)  原告は、本件各係争年分の所得金額を立証する書証として〈1〉総勘定元帳(甲二〇ないし二二)(以下「各元帳」という。)、〈2〉右各元帳の記載の根拠となった売上伝票、領収書類等(甲O一ないし九四二の七、甲A一ないし五七八三、甲B一ないし四六九七、甲C一ないし八八)、〈3〉現金出納帳(甲三二)、〈4〉科目別集計表(甲三五)、〈5〉飲食店の売上げのレシート(甲三七ないし五三)などを提出しているので、以下これらの信用性について検討する。

(二)  継続的に事業を遂行する中では、日々さまざまな取引が行われ、これに伴いさまざまな収入及び支出が繰り返されるのであるから、右事業に係る所得金額を正確に把握するためには、個々の取引に伴う収入及び支出をその都度原始資料に基づき整然と、かつ、正確に記載した帳簿類の存在が不可欠である。

しかし、原告は、運送業及び飲食業について日々現金の出入りを記載していたと供述する帳面あるいは飲食業に関し笑子がつけていたと供述するノートを提出していないから、このような帳面あるいはノートについては、その存在自体が疑わしい。また、原告は、飲食業に関する右〈3〉の現金出納帳については、二ヶ月に一回くらいにまとめてつけていたと供述しているから、前述のような個々の収入支出の都度原始書類に基づき整然かつ正確に記載した帳簿類に当たるということはできず、また、右〈4〉も個々の取引毎に記載されたものではないから前述のような帳簿類に該当しないものである。そうすると、本件においては、原告の所得金額を正確に把握するために必要な帳簿類が存在しないことになるから、実額の把握は相当困難であるといわざるを得ない。

次に原告が本件訴訟のために原告の所属する商友会の事務局長竹原勇に依頼して新たに作成したと供述する右〈1〉の各元帳についてみるに、原告は、これらが右〈2〉の売上伝票、領収書類、右〈5〉のレシート等の原始資料を見直して作成されたものである旨供述するので、右〈1〉の各元帳の信用性は、右〈2〉及び〈5〉の原始資料の信用性に係ってくるといえるから、右〈2〉及び〈5〉の資料について検討する。

(1) 収入について

右〈2〉の中の飲食業に関する売上伝票には、日付のないもの、消費税導入前であるのに消費税と記載があるもの、消費税と書かれていると思われる部分が切り取られているものが含まれており、売上伝票中には事後的に作成されたものが相当数含まれていることが明らかであるから、売上伝票は総体として、信用性に欠け、実額を証する原始資料とはなり得ない。

原告は、右事後作成の点に関し、字が汚かったので書き直したと供述するが、課税処分の適否が争われ、原告の所得金額が問題となり、これを証する書面となりうる売上伝票の重要性は、原告自身十分理解していたはずであるから、これをあえて書き直すとは考えられず、また、元の売上伝票を証拠として提出していないことからすると右供述部分は到底信用できない。

また、原告は、右〈5〉のレシートは、事後作成の疑いはなく信用できるから、レシートの金額とほぼ一致する売上伝票の信用性も維持されると主張するようであるが、右レシートには昭和五九年一二月分及び昭和六〇年一月分をはじめ存在しないものがあるから、これ自体は原告の飲食業の売上げの実額を証する原始資料とはなり得ず、また、売上伝票と一部符号する部分があったとしても、そのことから売上伝票全体の信用性が裏付けられるということはできないから、原告の右主張は理由がない。

(2) 支出について

右〈2〉の中には、出金メモと称する書面が数多く含まれているが(例えば甲B〇二九五八)、これらにつき原告は、領収書のない部分について、原告が日々のお金の出入りを記載していたとする帳面の記載を基にして今回の訴訟のために作成したと供述するところ、右帳面の存在自体疑わしいことは前述のとおりであり、他に右出金メモに係る支出がなされたことを認めるに足りる証拠はないから、いずれも原告の支出の実額を証する原始資料とはなり得ない。

また、原告の提出する領収書の中には、原告も自認するように事後的に作成したもの、日付を訂正したものなど、領収書に係る支出が実際に行われたか相当に疑わしいものが存在し、原告の支出の全てを裏付ける証拠としては不十分であるといわざるを得ない。

(3) 右の点からすれば、原告提出の右〈2〉及び〈5〉の書証には、右のような不備が認められるから、原告の本件各係争年分の所得金額の全てを証する書証とはなり得ず、結局、これを基に作成されたとする右〈1〉の各元帳の記載もこれを信用することはできない。

(三)  以上によれば、原告による実額についての立証が対象、方法、程度のいずれの点についても不十分であり、したがって、原告主張の所得金額であることが合理的疑いを入れない程度にまで立証されているとは到底いえないというべきである。

しかしながら、原告は、自己比準においても原告主張の所得金額が推計によるものより、真実の額に近いと主張し(事実適示四6(二)参照)、この点を実額主張の一根拠として掲げるところ、仮に、昭和六二年ないし平成元年の所得金額が原告主張のとおりであったとしても(この点は本件審理対象とされていないため真偽不明である。)これから直ちに本件各係争年分の所得金額が原告主張のとおりであると推認することができないことはいうまでもなく、実額反証を補強するものとして主張しているのであれば、実額反証が不十分であることは右に述べたとおりであるから、原告の右主張はいずれにせよ理由がない。

したがって、原告の実額反証の主張は失当であることが明らかである。

4  本件各更正処分の適法性

これまで述べてきたとおり、被告主張の推計には必要性と合理性があり、原告による実額反証は失当であって、推計による原告の本件各係争年分の総所得金額及び納税額は、本件各更正処分(本件各審査裁決による変更後のもの)におけるそれらを上回る金額であるから、これらはいずれも適法であり、したがって、これらの納税額に基づいて過少申告加算税を算出した本件各賦課決定(本件各審査裁決による一部取消後のもの)も適法である。

五  よって、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 一宮和夫 裁判官 堀内明 裁判官 小原一人)

別表1

〈省略〉

別表2

総所得金額の計算

〈省略〉

別表3

運送業に係る同業者率

〈省略〉

別表4

飲食業に係る同業者率

〈省略〉

別表5の1

昭和59年度

〈省略〉

別表5の2

昭和60年度

〈省略〉

別表5の3

昭和61年度

〈省略〉

別表6

各号証ごとの合計額

〈省略〉

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